丸みを帯びた濃ゆい紅色にとても秘めやかで可憐な6条のシルキーライン……⁈
「ま、まるで、スタールビーみたい……⁈」
それに鳩の血のように鮮やかな濃い赤色……?
それは紫系やピンク系の赤色を呈し、柔らかな光沢を見せている。
さらには石の内部からの輝きが強く、鮮やかなテリを見せている至高の一品……。
「凄い! まるでピジョンブラッドのよう……」
私はあまりの感動に目を輝かせ、呆然と立ち尽くし、暫く言葉を失ってしまう。
「はっはっは、どうやらこちらもご満足していただいたようじゃの? しかもその魔石は非加熱の天然物じゃよ? どうじゃ?」
(ど、どうじゃと言われても……)
ほう……と、感嘆のため息が出ているのが自分でも分る。
なにせ二つともカットの仕上げが済んでいる状態にもかかわらず、20カラット以上ある超一級の極上品なのだから。
(ううん! いけない、これを私が装飾するのよね)
……私は落ち着きを取り戻す為に大きく深呼吸し、いつものように自分の胸のペンダントに目をやる。
「……失われた国宝と言われる、『ガリウスクィーンブラッド』か」
小次狼さんは私のペンダントを見て、ぼそりと呟く。
ガリウスクィーンブラッドとは、宝石の名の通り、ガリウス大陸産のクィーンブラッドの事である。
更に細かく説明すると、ガリウス大陸がまだ3つの国に分かれておらず、世界を統一していた最盛期の頃に国の王女が即位した印として身に着けていたことからその名前が付いたと言われている。
(同じピジョンブラッドの中でもさらに、その頂点に君臨する代物なんだよね)
「確か、対となる国宝『ガリウスキングブラッド』もあるはずじゃが……」
「……それは恐らく彼がまだ持っているわ……」
(そう、彼と決別したあの時も胸に付けていたもの……)
私は何百年前のあの記憶を思い出し、胸のペンダントを少し強く握りしめる……。
(流石、元忍びの統領、世界規模の貴重な情報を把握しているのは流石としか言いようがないよね)
こんな感じで雑談が弾み、それから数十分後……。
「いやー、つい昔話をしてしまったわい! っと、そうそう、嬢ちゃんに一つお願いがあっての?」
小次狼さんは懐からそっと何かを取り出す。
「……えっと、これは?」
私は目を細め、テーブルに置かれたそれを見る。
それには「招待状」と書かれていたからだ。
私が目を細めたのは、私が「基本魔石商として直接会って依頼を受けることはしていない」からだ。
その理由は小次狼さんという窓口を通して、依頼を受けているから。
(これも前いた組織『エターナルアザー』を抜けた関係などのこともあり、目立たなくする保身のためなんだよね)
「んー……まあその相手が相手じゃったから断り切れなくての、すまんな嬢ちゃん……」
小次狼さんは頭をかきながら、申し訳なさそうに頭を垂れる。
(うーん? 小次狼さんほどの剛の者を困らせる相手……。一体何者だろうか?)
私はそんな事を考えながら、その手紙をひょいと裏返す。
「えっ!」
私はその驚きのあまり、片手で思わず口を塞いでしまう。
(赤封蝋のこのサーベルタイガーの紋章……⁈ こ、これってまさか?)
「そう、ガリウス3強国の一つ、イッカ国の王族からの依頼じゃよ……」
「え……?」
……私は驚きの余り、しばらく言葉を失ってしまう。
「……嬢ちゃん、依頼を断るか?」
「いや、断ること自体がそもそも無理でしょ……。え、えっと、ちなみに、どんな内容かしら?」
小次狼さんは私の目を見つめた後、「それを見ろ」と言わんばかりに目線を手紙に向ける。
私はその行動の意味を察し、胸に手を当て緊張しながら手紙の封を切って行く。
(あの小次狼さんが自らの言葉で説明出来ない、王族からの依頼って一体どんな内容かしら……? どれどれ?)
手紙には以下の内容が書かれていた。
初めまして、私はイッカ国のものですが、内密にしておきたく身分と名前は伏せております。
貴方の、魔石に関する目利きとデザインの御慧眼のお噂はお聞きしております。
本題に入りますが、近々私の身内が結婚することになりまして、その祝いとして最高級の魔石にて新郎新婦用のアクセサリーを作っていただきたいのです。
なお、詳しい内容については使いのものから直接お聞きください。
依頼の報酬である、前払い分も使いのものに渡しております。
レイシャ様へ。
手紙の内容は以上だった。
(あのどうでもいいですが、サーベルタイガーの紋章を使っている時点で王族ってバレバレなんですけど……)
頬を引きつらせ苦笑いしながら、静かにため息をつく私でした。
(何故分るかって? だって、下々のものがこの紋章を偽証して使おうものなら、イッカ国の法律上即打ち首だしねえ……?)
ここら辺は箱庭育ちの品の良さが仇になってしまった結果なんでしょうが、それはさておき……。
「……使いのもの?」
私は小次狼さんの顔を見つめる。
「儂じゃよ……」
「あ、成程……。で、でも……」
(ちょっと荷が重そうだし、私はあまり目立ちたくないんだよね)
私がそれを口にする前に、小次狼さんはリュックから次々と金目のものを出しーブルに並べていく。
「えっ、ええっ!」
なんと驚いた事に、5カラットから10カラット級の大粒である様々な宝石が私の目の前に陳列されている⁈
(こ、この滑らかなシルクのような光沢はマルリン産の大粒の天然真珠……。それにマリンブルーに力強く光り輝くこれは、イッカ国の天然ブルーダイヤモンド……)
「どうじゃ? 引き受けて指輪のデザインをする気になったか?」
「え、ええ……。ど、どうせ断れない内容だし……。ちなみにこの前払い分どうやって分けます?」
私は先程とは違い真剣な顔で、小次狼さんの目を見つめる。
「儂はいらんから、嬢ちゃんの好きにするといい」
「ええっ! でも、流石にそれは……」
目利きやデザインは私がするものの、そもそも仕事を取ってきたのは小次狼さんであるし、カットや金属加工も然りである。
「儂の場合、嬢ちゃんありきの仕事だしの……」
「いやいや、それはお互い様でしょ……」
「まあの……。しかし、嬢ちゃんとの約束を破ってしまった負い目は、その前払い分よりも遥かに重いと儂は感じ取るからの……」
「あ……」
確かに報酬内容は美味しいものの、王族と直接つながることは表舞台に出ることを意味する……。
それはメリットも大きいが、デメリットも付随してついてくるものだから……。
「儂は引退したとはいえ、国を思う一人の民じゃしの。今回はイッカ国とのパイプを作る良い機会だと思ったんじゃよ。すまんな嬢ちゃん……」
(……ああ、成程小次狼さんらしいし、彼を動かしたのは国を思う義だったわけね)
「……それにお金なら、嬢ちゃんからは宝石の加工賃や窓口の委託金も貰っとるしの十分じゃよ」
(ああ、これらの前払いの宝石も加工賃さえもらえれればってわけね。損して得取れか……。叶わないな小太郎さんの器の大きさには)
「分かったこの依頼責任を持って引き受けさせていただきます。で、話は変わるんですがイッカ国の王子って、確か第二王子までしかいなかったわよね?」
「……そうじゃな」
(なるほどね。近々第一王子が結婚する予定は耳に入っているから、消去法でいくと依頼主は……)
「……依頼主は第二王子?」
……そんなこんなで数か月がたったある日、ここはイハールの屋敷のとある作業部屋。 あきらかに私の作業部屋よりも広くいろんな道具が揃っているこの場所は、今では私達の新しい作業部屋になっていた。 木目の作業机の上には片手ハンマーやピンセント、宝石や魔石を研磨する道具などが置かれているのが散見される。「クロウ、これどう?」「うーん、形はいいですけどあまり魔力は含まれてませんね……。明らかに2級品の魔石です」 クロウは残念と言わんばかりに深いため息をつく。「うーん、じゃ、次これは?」 作業エプロンを着た私とクロウは仲良く横並びに座り、魔石の仕分け作業を黙々とこなしている最中だったりする。「失礼します!」「嬢ちゃん達帰ったぞい!」 そんな最中、部屋に響き渡るはドアを開けし、聞き慣れし2名の声!「待ってました!」「2人ともいいの取れました?」「ほっほっほ!」「ふふ……」 不敵な笑いを浮かべながら、背に背負っていた大きめのリュックをえいやっと地面におろす小次狼さんとドラグネオン。「ほれ! どうじゃ!」 小次狼さん達がリユックから取り出した握りこぶし大の魔石の原石達。 形は歪であるものの、それはまるで太陽の如く真っ赤に輝いていたのだ!「な、なんて、す、凄い量のマナ……!」 クロウは感激のあまり思わず席を立ちあがり、目を輝かせている模様。「立派なもんじゃろ? それらはドラグネオン殿が全て探知してくれたものなんじゃよ」「へ、へえええ……?」 私は真紅に輝くそれらを値踏みしながら、どんな細工品にしようか頭を巡らせていた。「そっか、ドラグネオンは雷のマナの扱いにに長けているから! 体力もありますし、一流の採掘屋として活躍できてるじゃないですか! 凄いです!」「そ、そうなのだが私
……という事で、それから数時間後。 ここは例のブリガンの肉料理屋さん。「いやあ、あの時の小次狼殿の刀技は見事でしたな……」「いやいや、ドラグネオン殿の剣技こそ見事なものでしたぞ!」 それぞれ服装を整えた私達は、各自好物の肉を美味しくいただきながら木椅子に腰かけ、談話していた。「まあ、なにはともあれめでたしよね……」「そうじゃな」「ですね……」「うむ」 私達は各自ビールを飲み干し、そっとテーブルにマグカップ置く。「あっ! ところでイハールさんの件は?」「ああ、それはイミテーションブルーが次の満月に『魂の入れ替えの儀式』がレクチャーしてくれるらいよ?」「な、なるほど! 例の隠し部屋の本にもそれらしきものが色々ありましたね!」 クロウは満面の笑みを浮かべ、コクコクと頷いてますが……。「クロウ、やはり貴方……」「……え、ち、違いますよ? そ、そんなんじゃないんですって!」 クロウはその可愛らしい顔を赤み肉より真っ赤にし、目を躍らせ慌てふためいているが……。(なんというかその、分かりやすいよね……) クロウの場合、仕事でも繋がりが深かったし色々惹かれるところがあったんでしょう。「……ね、ね! クロウは青年のどんなところに惹かれたの?」 私はクロウの顔を覗き込き、すっかり赤くなっているその頬をツンツンとつついてみる。「ち、ちがっ! あ、そ、それよりもリッチー=アガンドラがいなくなった今、組織はどうしましょうか?」「え? そりゃ、私はもう関係者ではないんだし、貴方達上位幹部が好きに決めたらいいんじゃない?」「……そうはいかない。と
「う、うわあああああああああああああ……! い、嫌だっ! 我はまだ死っ……」 リッチー=アガンドラはあっという間に燃え上がり、たまらず絶叫を上げのたうちまわっていますが……?「え、ええっ! ち、ちょっと本当に大丈夫なのこれ?」 そんな私の心配をよそに、紅蓮の炎が消えてなくなったそこには仰向けに倒れているブラッド青年の姿が見えた。『な、大丈夫だろ? ユグドラのマナがフェニックスの力を借りてリッチー=アガンドラの魂を浄化しただけだしな』 なるほど、確かに何故か青年の服は燃えていないし、これには納得せざるを得ない。(それはそうとして、問題はここからどうやって逃げ出すかよね……) というのも、リッチー=アガンドラを滅した事により、奴の作り出した虚実空間から現実世界に戻ってこれたのはいい。 けど問題はここがエターナルアザーの本物の訓練部屋であるという事実。 早い話、奴の部下が大量にいるだろうし、まだ油断が出来ない状態であるからだ。『なあに大丈夫、今の君なら私を通してまだ魔法が使える状態にある。それがどういう事が聡い君なら分るよね?』『あっ! なるほど……!』 て事で、謎の力が満ちている私はブラッド青年を軽く背負う。『じゃ、後の詠唱はお願いね!』『心得た』 再び私の体を借りたイミテーションブルーはレッドニードルに残ったマナを使用し、高速詠唱テレポートを唱え、あっという間にブラッド青年の部屋に無事舞い戻る事になる。「あ、きたきた! やっぱり無事でしたね!」 意識と視界が戻ると同時に、聞き慣れた元気な声が正面から聞こえてくる。 彼女は人懐っこいワン公のような笑みを浮かべ、私に向かって歩んできた。 大きな垂れ目に流れるような黒毛、うん、間違いなくクロウだろう。「ふむ、流石嬢ちゃんとと言いたいとこじゃが、儂の方が早かったの?」
『これで色んな準備は整った。後は私が言う通りにするんだレイシャ』『え、私が?』『そう、これでまたレッドニードルに血液を捧げれるだろ?』 『……あ、ああ、なるほど!』 そんな会話をしている間にリッチー=アガンドラはなにやら高速詠唱を唱えているが?「う、ううっ! な、何故だっ! 何故私の呪文が発動しない? ま、まさか? 今の血を吸ったのは……」「ご名答、なんせお前は転移魔法が使えるからな。血を吸うついでに少しマナの回路をいじって呪文の発動を封印させてもらった!」「く、くそっ! くそおおおっ!」 悔しさのあまりリッチー=アガンドラは己の両手の拳を力強く握りしめ、声を張り上げ叫ぶ!(あ、そっか! 奴に逃げられたらブラッド青年の体を取り戻せないもんね) 流石長、一手で相手の複数の行動を制限し、かつこちらに凄い有利な状況を作ったし、やる事が凄い。 で、体の主導権が私に戻ってきたので、早速だけど早々に決めさせていただく!「私の血を吸いなさいレッドニードル!」 私の言葉に反応し、胸元のペンダントは真紅の輝きを放つ! で、いつものように手に持っていたレッドニードルの柄の部分から、まるでバラのツタのようなものが発生し、それらは蠢きながら私の腕に巻き付いていく!「つ……!」 分かってはいるけど相変わらずこの感触と痛みには慣れない。 『で、ここからどうするの長?』『これで君が呪文を使える状況は整った! 後は私の言葉を追って呪文を詠唱してくれ!』『うん、分ったわ!』『聖なる大樹よ。我が声に応え、そのマナをこのレッドニードルに納めたまえ!』 私はレッドニードルを自身の胸元にそっと携え、イミテーションブルーの後追い詠唱を始める。 「聖なる大樹よ。我が声に応え、そのマナをこのレッドニードルに納めたまえ!」 すると私の声に応え、不思議な事にレッドニードルの刀身が鈍
「クククク、どうやら術が完成したようだ。どうやらこの勝負、私の勝利のようだ! さらばだレイシャ!」 リッチー=アガンドラは不敵な笑みを浮かべ高笑いをしている。「いでよ絶対零度の支配者にして、氷の女王よ! そなたの力を持ってして我が敵を氷塊と化せ!」 リッチー=アガンドラの額のサークレットから力ある言葉が放たれ、私の目の前に全身氷のマナで覆われた『氷の女王』が顕現する! 見た目は透き通った華麗な氷の貴婦人……。 だが、それはまごうことなき死の代弁者。 その氷の女王は残酷なまでの冷笑を浮かべ、私に向かって静々と歩き静かに『死の息吹』を吹きかけたのだ……。(さ、寒い! いや、そんな感覚すらも生ぬるいこの冷たさ……) 私は遠くなっていく意識の中で、咄嗟に例のメモ紙を懐から取り出し静かに握りしめる!「……ふふ、ふふははは! レイシャよ! 流石に絶対零度の死の息吹の前ではなすすべなしであろう!」 リッチー=アガンドラの嘲笑が響き渡る中、パキリ……と何かが壊れる生々しい音が私には聞こえた気がした。「……ははは、は、はあっ?」 リッチー=アガンドラの嘲笑はピタリと止み、今度は目を大きく見開き驚いている模様。 そう、奴が驚くのも無理もない。 私は肌の表皮が少し凍っただけで、ほほ無傷の状態で何事も無いように立っていたからだ。「ば、ばかな? 何故、何故我の最高の氷魔法を食らってお前は無事でいられるんだ? 貴様っ!」「……それはこれのおかげ」 私は手に持っていたメモ紙を開き、奴にそれを見せる。「女神の姿を形どった銀の指輪っ! しかも虹色の魔石が埋まっているだとっ! ま、まさかそれは……?」「そのまさか、超希少アイテム『身代わりの女神の指輪』よ……
「ふふ、これで良しと……」 よく見ると額に青い魔石のサークレットを身に着けている。 リッチー=アガンドラは無駄を嫌う冷静な軍師タイプ。 だからこの行動にも絶対に意味はあるはず!『長ッ、ちょっとあれは何?』『まずいな……。あれはリッチー=アガンドラの隠し玉の1つ、「零口のサークレット」だ』『ええっ! ど、どんなアイテムなの?』『結論から言うと、呪文を2つ同時詠唱出来るようになる壊れアイテムだ。詳しく説明すると、もう1つの意思を持ったリッチー=アガンドラの口が出来たわけだ』 『ええっ! で、でもそんな神アイテムがあるなら何故はやく使わなかったんだろう?』『あれは希少な消耗アイテムで、奴のお気に入りのコレクションなのだ。あれを使わせたという事はレイシャが奴を追い詰めている証拠さ』『なるほど、ポジティブ思考でいくとそうなるわね! じゃ、そうとわかればトドメを差しにいかないとね!』 私は再び呪文を詠唱していくリッチー=アガンドラに向かって、容赦ない斬撃を繰り出す! ……なるほど、リッチー=アガンドラの周囲を覆う水色に光る魔法防御壁が次第に薄くなってきている!「もう貴方の魔力も尽き欠けているわ! 観念しなさい! リッチー=アガンドラっ!」「く、ぐうっ! 魔法の完成はまだかっ!」 声からもリッチー=アガンドラが狼狽えているのが分る。(そっか、オートで自立して魔法を唱えるアイテムだからリッチー=アガンドラ自体もいつ何の魔法が完成するかわかんないんだ! それに本体は魔法防御で手いっぱいなのかも) となれば、今が絶好の機会っ!「も、燃えよ! レッドニードルっ!」 私はふらつきながらも気合を入れ高らかに叫び、力強くレッドニードルを握りリッチー=アガンドラに斬りかかっていく!(……よくよく考えると、このレッドニードルって不思議よね。そしてこの刀身に宿る炎のエネルギーって、